目次

1.ヒルトレーニングで傾斜を利用して鍛えよう

ヒルトレーニングで坂を利用した練習方法
ヒルトレーニングという方法に世界のランナーが注目したのは、ローマオリンピック(1960年)、東京オリンピック(1964年)の中長距離種目におけるニュージーランド人ランナーの活躍がきっかけでした。

ニュージーランドのコーチ、 リデイアードは、準備期に4週間にわたって週2回このヒルトレーニングを実施して、有酸素、無酸素的能力を高め、加えて、脚筋力を養成してチャンピオンをつくったのです。

具体的には400~ 800m(傾斜5~ 10%)の長さの上り坂(芝生が理想的)を母指球でキックして、弾みながら(バウンディング)上っていきます。頂上に達したらゆっくりジョギングして、その後下ります。

スタート地点に戻ったら、平坦な約200mの距離をリラックスして3~ 4回走り、再びヒルに挑むという内容で、1回当たりの走行距離は5~ 12kmに設定されていました。この方法を原点として、その後いろいろな修正法が考えられているので、 ここで紹介してみましょう。

2.ヒルトレーニングの目的
ヒルトレーニングの目的は次のようにまとめられます

心肺機能を高める
走って5~ 10秒ないし20~ 30秒を要する坂から4~ 5分までの坂上りを含むコースを設定して、最大酸素摂取量を刺激します。

筋カアップで障害を予防する
勝腹筋(ふくらはぎ)、大腿二頭筋、大腿四頭筋(太もも)が強くなり、膝の安定性が高まるため、ランナーズニー(膝のお皿周囲に痛みが生じること。特に走った後に生じる)を防ぎます。

フォームを滑らかにする
腕が前後方向に振れない、小さい腕振りしかできない、膝が上がらない、引きずるような走りでは、坂を上る時に効率が悪く、差がつきやすいものです。

ヒルトレーニングで膝上げと腕振りを強調することは、大きな動きを持続できるフォームにつながります。加齢に伴ってストライドが狭くなる中高年ランナーにとっては効果的です。

レースをシミュレーションする
ロードランナーにとって、 コースの中の坂の上り。下りは、他のランナーと勝負して差をつける重要な地点です。坂上りと坂下りのランニングの経済性を高めておくことは「必須事項」とも言えます。

3.ヒルトレーニングの具体例
トラックの長距離種目をねらうランナーとハーフ以上のロードランナーとでは、用いるヒルの長さや強度に違いが出てきます。各ランナーの種目と特徴を把握して、内容を考えていかなければなりません。ここではサンプルとなる例をあげておきます。

30~100mの短い急坂を用いたヒルトレーニング
トラックでのスプリント能力を高める場合に効果的です。速いスピードで反復し、歩行やジョギングでつなぎます。

300~600mの距離で中程度の傾斜のヒルトレーニング
前述したリデイアード方式を模倣しても良いですし、アレンジしても良いでしょう。この距離を3~ 5回、 ランニングのリズムとフォームを意識してトライしましょう。

ロングヒルトレーニング
1周3~ 5kmのロード周回コースにだらだらとした上り坂があれば、そこで少しスピードアップして走るトレーニングです(頑張りは禁物)。また、山道を気持ち良い速度で1~ 2時間走ることもこのトレーニングに入ります。

試合のコースにある坂でのランニングの経済性を高めることが目的ですので、 リラックスして走りましょう。不必要な頑張りと意識的なスピードアップは控えたいものです。

ショートヒルインターバル
ヒルトレーニングの中でもハードな部類に200-300mほどの登り坂を繰り返すインターバルトレーニングがあります。
短い坂道を、全力に近いペースで駆け上がる事によって、股関節周りの大きな筋肉や上半身の筋肉も鍛えられ、また心肺にも大きな刺激を与える事ができます。

ダウンヒルラン
下り坂でのランニングを組み込むと、足の筋肉が鍛えられ、膝の安定性が向上します。 下り坂を走る時に、重力に抵抗して転倒を防止するため、効果的な筋肉の動きと安定感が要求されます。
また、下り坂では、重力によって常に下に引っ張られるので、走るピッチを上げる必要があります。 そうすると歩幅が狭くなり、オーバーストライドを防止できます。


4.ヒルトレーニングの留意点
ヒルトレーニングの留意点をまとめると、次のようになります。

・毎回、坂の同じスタート地点から上がる必要はありません。途中からでもOK。走る長さは個人の能力に合わせます。ヒルの1/2、2/3からでも良いでしよう。ゆっくりしたジョギングから始めて徐々にスピードアップする方法も可能です。

・平地と同じスピードでヒルを走ろうとしてはいけません。リラックスしたヒルランニングを獲得することが目的です。しかし、ある程度の努カレベルは保ちましょう。

・ストライドを少し狭くし、膝を上げることを意識して上がります。腕振りは幾分強調しますが、上半身は緊張させないようにします。

・下りは障害予防のために、市民ランナーレベルはゆっくりと走りましょう。脚と足裏に大きな負荷がかかるからです。

・傾斜を上る時の負荷は、平地を走る時より筋疲労を早く起こすので、体カレベルの低いランナーは距離を短くし、ゆっくり上るようにしましょう

・ヒルランニングは、 レース時の筋疲労に近くなるので週1回で十分(最高2回)です。それ以上行うと、筋線維の分裂を修復するリカバリーの時間がなくなり、障害につながるおそれがあります。強度が高く、体への負担も大きくなるので、レース前の時期は避けて、 トレーニングの準備期に用いましょう。

5.トレッドミルを用いたヒルトレーニング
冬に雪が多くて走れない地方のランナーや梅雨の時期などには、 トレッドミルを用いてヒルトレーニングを行う方法もあります。

1kmを4分のペースまでなら簡易型のトレッドミルでも行えます。フルマラソンで3~ 5時間台の市民ランナーにとっては、都合の良い手段と言えます。

具体例を次のように3種類あげてみます。バリエーションはいろいろ考えられますし、試行錯誤して好みの方法を編み出す楽しみもあるので、工夫してみましょう。

・方法1:各自のマラソンペースで傾斜角3%から始め、 3分ごとに1%ずつ上げます。8%まで上ったら、3分ごとに1%ずつ傾斜を下げます。これを30分続けます。2セット60分が適当でしょう。きつく感じる人はペースを落としましょう。

・方法2:走行時間を各傾斜角で5分ずつとし、 2%→ 4%→ 6%あるいは3%→ 6%→ 9%と上昇させ、最高傾斜角に達したら、傾斜を0にし3分のジョギングを入れて3~ 5セット実施します。速度はマラソンペース±10~ 30m/分を基準とします。

・方法3:4~ 8%の傾斜角を設定し、マラソンペース±10~20m/分の速度で30~ 60秒走り、すぐに傾斜を0にして同じ時間の休息ジョギングを入れるか、 2倍の休息時間をとります。これを10~ 15回反復します。この練習実施後の満足感と自信の茅生えは、 ジョギングや自転車エルゴメーターなどの練習に比べ、かなり大きなものがあるはずです。

なお、 トレッドミルによるランニングは風抵抗を受けないので、同じスピードで平地を走るよりエネルギー消費量が少なくなります。

したがって、トレッドミルを用いてマラソンペースで走るトレーニングをする場合、平地と同じエネルギー消費量にするには1%の傾斜をつけることが必要となります。


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