高地トレーニングと坂道トレーニングで負荷練習
『マラソン日本代表選手が、高地トレーニングから帰国』そんな見出しがスポーツ紙に載ることも珍しくなくなりました。
高地トレーニングとは、酸素濃度が薄く気圧が低い標高の高い場所で、長距離選手らが行うトレーニングのことを指します。
1.高地トレーニング
高地トレーニングがマラソントレーニング法として脚光をあびるようになったのは1960年頃からで、エチオピアなどの高地民族が世界の長距離競走において卓越した力を発揮し、活躍し始めたことが発端です。ローマおよび東京の五輪で連覇したアベベ選手がその代表でした。
高地環境の特徴
高地では通常(低地)の大気に比べ酸素分圧が低いという特徴があり、このような状態を低酸素といいます。
低酸素下におかれた生体は、酸素獲得をしようと生体機能を順応させていきます(順化)すなわち呼吸数の増加による換気量の増大、赤血球数やヘモグロビン量の増加、筋毛細血管網の発達、ミオグロビン量の増加、酵素活性の向上などが起こります。
低酸素下でトレーニングを行えば、これらの効果によって持久力に必要不可欠な酸素獲得能力(有酸素能力)がより高まり、パフォーマンスが改善されます。
高地トレーニングの難しさ
高地順化とトレーニングメニュー
高地トレーニングは理論的には持久性スポーツに有効であるにもかかわらず、必ずしもすべての試みが成功しているとはいえないのが現状です。
その理由は高地トレーニングの以下の特徴にあると考えられます。
第一に高地トレーニングを行う高度条件です。高度が高くなればなるほど、酸素分圧は下がります。
高地順化の観点では3,000mかそれ以上の標高が最も効果的です。しかしながらトレーニングの観点からすると、あまり標高が高く酸素分圧が低いと疲労が強くなって、必要な練習量や強度が保てないという問題が生じます。
このような相反する問題の解決策として、滞在条件を工夫したトレーニング法が提案されています。
1週間程度の高地滞在と平地滞在を交互に反復する「高地―平地反復法」や高地で生活しトレーニングは平地で行うという「高地滞在―平地トレーニング法」などがその代表です。
これらの方法は トレーニング強度の低下を防ぎ、かつ低酸素下での受動的効果を生かす方法として注目されています。
第二に高地順化の効果は永久ではなく、高地で獲得した効果は平地に戻れば徐々に減退し、2~ 3週間でほぼ消失します。
したがって、レースの直前まで高地にいるのが望ましいのですが、海外などで高地トレーニングを行う場合、移動や時差の問題も考慮しなくてはなりません。
第三に高地では、食欲減退や消化吸収障害などの栄養問題が起こりやすくなります。極端な高地では、生体のタンパク分解による筋の萎縮なども報告されています。
その他に合宿が長期間になるほど、生活環境、衛生、トレーニング環境、ホームシックなど低酸素以外の条件も、選手にマイナス要因として働くこともあり得えます。
超一流でなくても
一般ランナーの場合、長期間の海外での高地滞在は費用の問題も含め、実行するのは難しいのが実状でしょう。
近年は3日間程度の短期間の高地トレーニングでも一定の効果のあることが報告されています。国内にも長野・菅平高原、山形・蔵王山麓などマラソントレーニングの可能な準高地があります。
上記特性や問題点をよく理解した上で自分の高地トレーニングの拠点をつくってみるのも楽しいのではないでしょうか。そのほか、低圧室や低酸素室を利用して高地に匹敵する低酸素状態をシミュレートする方法もあります。
これらの施設は大学やスポーツ研究所などで近年増えています。機会があれば高所の疑似体験やトレーニングとして利用してみるとよいでしょう。
2.上り坂ではスタミナ切れ下り坂ではオーバーペース
ランナーは坂道に入ると、平坦な道を走るときとフォームを変える。上り坂では一般的に坂に合わせてヒザを曲げ、モモを上げて、蹴る力を強めて乗り切ろうとする。このときペースが必要以上に落ちないように気にすればするほど、力みが生じ、スタミナを消耗する。逆に下り坂だと自然に回転数が上がってオーバーペースになりやすい。これを防ぐために着地時のカカ卜のブレーキを強くして、ペースを守ろうとする。どちらにしても平坦な道を走るのと比べて、精神的にも肉体的にもロスやタメージが大きい。
上り坂と下り坂それぞれに適した練習法
坂道がつらい、苦しいというこれまでの経験から、坂道が見えただけで意識して走りが変わってしまうランナーが多い。上り坂を克服する第一歩のドリルは、目隠しランが効果的だ。
視覚に頼らず、足が地面につく感覚に体が自然に反応するのでフォームを変えずに走る練習になる。また、平坦なところから始めて、坂道に入ってもフォームを変えずに走るドリルで、坂道でも回転数を落とさないで走る練習をしてみよう。
下り坂はブレーキをかけない走り方を身につけることで、できるだけ回転数を上げるトレーニングになる。最初から急な坂道で行うのではなく、まずはできるだけ緩やかな坂道で走るのがよい。もし回転数が上がり、足がついてこなかったら、さらに緩やかな坂に移動して試そう。
フォームを変えないコツは坂道を意識しないこと。
目隠しランニングをすると、坂道に入ったことが目には見えないので、足が地面に接したときに体が自然に反応し、足が動くようになる。坂道を意識せず、平坦な道と同じ感覚で走れるようになるのだ。
実はこの感覚がどんな地形でもフォームを変えないコツ。コンスタントなフォームで走れれば、タイムを短縮できる可能性もグッと高まる。
3.坂道練習で強弱をつけて負荷をかけよう
走るペースに強弱をつける方法もあるのですが、もっと簡単に体に負荷をかけるやり方があります。それが「坂道」です。
無理をせずリズミカルに走ろう
ランニングをするコースは近所の公園や市街地が多いことでしょう。場所によっては上り坂や坂があります。ラクに疲れずに走るためにも、坂道攻略は必須になります。
攻略のポイントはフォームです。上り坂はやや上体を前に傾けた姿勢で走りましょう。上体を起こしてしまうと、カラダが後力に引っ張られてしまい後傾になってしまいます。歩幅も多少狭くして焦らずコツコツゆっくりと走りましょう。
下り坂は後傾になり過ぎないよう注意しながら、リラックスして走りましょう。ヒザや股関節に負荷がかかりますので、スピードを出し過ぎないよう注意します。
上り坂は、上体を起こさずやや前傾姿勢で走りましょう。目線は前方で腕振りも平地と同じです。多少歩幅をコンパクトにしてリズミカルに走るのが大切です。
上り坂であれば傾斜がある分、自分のペースにかかわらず、自然と負荷がかかりますので有効な練習方法です。
もしあなたがいつも平坦な道を走っているのであれば、週1回は、坂道のあるコースを走ってみましょう。
坂道を使ったトレーニングの良いところは、体幹に刺激を入れることができる点です。
上り坂を走るときは上体を使って脚を引き上げて走るため、体幹に刺激が入り、腹筋、背筋を行なっているのと同じくらいの効果が期待できます。
どこにでもある坂道を利用する
走るための筋力強化の練習として、坂道を使ったトレーニングはとても有効となります。
坂道トレーニングは、上りと下りの両方の脚筋力をアップすることはもちろん、テンポよく走ることができる軽い走りを獲得することができます。
身近な舗装道路の坂道でOKです。積極的に坂道トレーニングを取り入れてみてください。
ちょっと息が上がるくらいにペースを上げ、呼吸を追い込んでみる。すると心肺機能にも刺激が入ります。
コースとしては、1~2kmごとに1回、上り坂があるような周回コースがいいですね。たとえば皇居や、吉祥寺の井の頭公園にはアップダウンがあります。
そこで上り坂をがんばると、スピードに変化をつけながら「心肺機能」と「脚筋力」を鍛える「変化走」のトレーニングをすることができます。
上り坂をがんばることは、インターバル走などのスピード練習がまだできない初心者にとって、呼吸を追い込み、脚の筋力に刺激を入れる大切なトレーニングになります。
坂道ダッシュ
300mほどの距離がある上り坂が理想的な坂ですが、短い坂でも繰り返し練習することで効果はあります。また、夜間でも走れるよう街灯があればベストです。
300mという距離は、ダッシュしてはもたない距離でしょう。最初はゆっくりと走り始め、徐々にペースアップをしていきます。結果的に300m先でしっかりと脚に疲労がたまり、心拍数も上がった状態で終わる。そのような感覚で行なってください。
4.レース中の上り下り攻略方法
上り坂では歩幅を狭くしピッチを上げる走り方少しだけ腕を振り歩幅を狭めるだけでよい
たしかに、急な上り坂や長い上り坂は、初心者だけでなくベテランランナーでもかなり苦しい。
しかし「苦しいことを楽しむ(苦楽しい)」のは、ジョギングの醍醐味でもあるのだ。
それほど長くなく比較的緩やかな上り坂であれば、平地と同じエネルギーで走ればよい。エネルギーを変えずに坂を上ると、スピードは落ちるが、練習ではその感覚を覚えておけばそれで十分である。
フォームは平地と同様に頭が腰の真上にあるのが基本で、長距離を走る場合は前傾姿勢にする必要もない。意識的に腕振りを小さく歩幅も狭くして、足を小刻みに動かすピッチ走法でリズミカルに上るのがよい。
バネを利かせて走るとぐんぐん上れるが、すぐに疲労するし、上ってからがつらくなるのでおすすめできない。
上り坂では途中よりも上りきったあとにダメージが出る
上り坂でのスピードダウンは自然なことと考えよう。無理をして平地と同じ速度で走ってしまうと、上りの途中はがんばれても上ってからがつらくなる。
下りでタイムの貯金をしようなどと考えない
下り坂では重力が体を引っ張ってくれるので、上りや平地よりスピードが出る。
ラクにスピードが出るため、多くの人はここでタイムの貯金をしようなどと考えがちだ。
しかし、下りでスピードへの欲を出すと、上体が前に突っ込みすぎて、つんのめる格好になる。格好だけならいいが、本当に転んでケガの元になる。それゆえ下り坂では、上体よりも足を前に出す気持ちで走ることがたいせつになる。
また、上体があまり反り返りすぎてもいけない。重力にブレーキをかけた形になり、足に大きな力がかかる。下り坂では特にひざにかかる負担が大きく、ここで無理をすると故障の原因になる。
重力に逆らわず、自然の流れにまかせて平地と同じ感覚で走ればよい。頭が腰の真上にある上体を意識して、足を前へ出すように走る。そうすれば自然にストライドが大きくなり、フォームも崩れない。
前傾や反り返りは下り坂でもよくない姿勢上体が前へ突っ込みすぎると加速がつきすぎて危険。また、反り返りすぎても、ブレーキがかかって足への負担が大きくなる。
平地と同じように頭が腰の真上にある上体で走るのが、よいフォームだ。
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