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遅筋と速筋は運動の種目によって比率も違うので鍛え方も同じじゃダメ

遅筋と速筋の違い運動単位と筋力
筋肉全体が発揮する筋力の大きさは、動員される運動単位の数と運動ニューロンの刺激(インパルス)発射頻度によって決まります。

1個の神経細胞(運動ニューロン)から出た神経線維は次第に枝分かれして、複数の骨格筋線維につながっています。

この1個の運動ニューロンと、それに支配されている複数の筋線維のひとかたまりを「運動単位」と呼びます。

収縮する1本ずつの筋線維が発揮する力の合計が、全体としての筋力となります。したがって、少数の運動単位が動員される場合は、全体としての筋收縮が大きくなることはありません。一つの細胞にあるすべての運動単位が動員されるときに筋力は最大になります。

ところで、すべての運動単位が動員された後も、さらに大きな筋力を発揮できるという現象が認められています。たとえば、親指を手のひら側に折りたたむときに活動する母指内転筋では、最大筋力の50%までにほぼすべての運動単位が動員されています。

しかし、すべての運動単位が動員された後も収縮力は増加し、ついには最大の筋力に到達します。

運動単位がすべて動員された後の筋力増加は、どのような仕組みで起こるのでしょうか。それは、運動ニューロンからの剌激(インパルス)発射頻度の増加によるものと考えられています。

筋線維は、運動ニューロンから刺激を受けたときにしか収縮しません。筋線維は1回だけ剌激を受けると、1回だけ収縮して力を発揮して弛緩します。これを「単収縮」といいます。

刺激を数回繰り返して受けると、筋線維は十分に発揮することができず、単収縮の効果が重なるために収縮力が増すことになります。運動ニューロンからの剌激頻度がさらに増すと、単収縮はいっそう密に重なり合い、より大きな収縮力が起こります。

すべての運動単位が動員された後は、運動ニューロンの刺激発射頻度が増して、単収縮の効果が密に重なり合うことによって大きな収縮力を出せるようになるのです。
単収縮の重なり合いを一般的に「収縮の重積」と呼びます。

筋の太さと筋力
筋力は筋肉の太さに相関しています。最大筋力と筋肉の太さ(筋横断面積)との両者の間には比例関係が認められ、筋肉が太いほど強い力を出すことがわかります。

なぜ、太い筋肉は強い力を出すことができるのでしょうか。その答は筋肉の中に含まれているアクチンとミオシンの量にあります。
筋肉は重量の50%が筋線維、30~35%がミトコンドリア、5%が筋小胞体、残りの約10~15%が結合組織からできています。

筋原線維は主にタンバク質からできています。その筋原線維を構成しているタンパク質の主たるものがアクチンとミオシンです。タンパク質の22 %はアクチンであり、43%はミオシンです。

この二つのタンパク質は「収縮タンパク質」といわれ、神経からの刺激によって収縮を起こし、収縮力を発生します。この一組のアクチンとミオシンが発生する力が筋力の最小単位であり、筋肉全体が発揮する筋力の元になります。

したがって、筋肉の中にたくさんの量のアクチンとミオシンがあれば、全体として大きな筋力を発揮できることになります。
アクチンとミオシンの主成分はタンパク質です。タンパク質の量は合成と分解という二つの反応によって決まります。

タンパク質の合成とはタンパク質がつくられて蓄積されることであり、分解とはタンパク質が減少していくことです。発達や適切な栄養摂取と運動などによって合成が分解を上回るとタンパク質の蓄積がすすみ、アクチンとミオシンの量が増えていきます。

アクチンとミオシンの量が増加すると筋原線維が太くなります。1本1本の筋原線維が太くなれば、それにともなって筋線維も太くなり、それが束ねられるように織り重なって構成されている筋肉全体も肥大してきます。また、筋収縮するアクチンとミオシンが増えるのにともなって、筋力も強くなってきます。このような仕組みによって、筋肉は太いほど強い力を発揮できることになるのです。


筋の長さと筋力
前や膝を曲げたり伸ばしたりするときに発揮される力の大きさは、力を出すときの関節の角度によって異なります。関節を曲げすぎても伸ばしすぎても、大きな力を出すことはできません。関節を中くらいに曲げたとき、最も大きな力を出すことができます。筋肉は弾力性に富んでいるので、その筋肉が付いている関節の角度によって長さは変化します。

関節を思いきり曲げると筋肉は短くなり、関節を最大限に伸ばすと筋肉は最も長くなります。筋肉が縮みすぎても伸びすぎてもおらず、中くらいの長さのときに最も大きな力を発揮できるのだということがわかります。

骨格筋線維をつくっている筋原線維は、多数の「筋節」が一直線につながってできています。力を発揮するときの筋肉の長さはまず筋節の長さに影響し、さらにアクチンとミオシンの重なり具合にも影響を及ぼし、その結果として発揮される筋力が異なるのです。

2. 筋線維
骨格筋はその収縮によって骨格を動かし、さまざまな身体運動を生み出します。その身体運動には、姿勢の保持というように大きな力を必要としないけれども、筋肉が長時間にわたって力を出し続けなければならないものがあります。また、スプリントやジャンプや投てき動作のように瞬間的に大きな力を出さなければならない運動もあります。

こうした各種の運動に呼応できるように、骨をつくる筋線維は、持続的な筋力発揮と瞬発的な筋力発揮という二つの相反する目的を行える二つの種類に分化しています。
この2種類の筋線維には、いろいろな呼び名が付けられています。

持続的な筋線維を「緊張性筋線維」、瞬発的な筋線維を「相動性筋線維」と呼ぶことがあります。

あるいは、筋線維の色の違いから「査筋線維」と「白筋線維」ということもあります。
さらに、収縮速度の違いから「遅筋線維」と「速筋線維」と呼ぶこともあります。
一般的には、遅筋線維と速筋線維に分ける方法がとられています。
また、最近では、筋線維を収縮の性質と代謝の相違から「SO線維」「FG線維」「FOG線維」の3種類に分けることも行われています。

筋線維は速筋線維と遅筋線維という二つのタイプに大きく分けられます。
この二つの筋線維の本質的な違いは、ミオシンやその他のタンパク質が異なる(異なる遺伝子によってつくられる)ことです。
筋管から筋線維への成熟が完結する過程で、神経が筋管に接合します。

神経が筋管に接合するとき、別の遺伝子回路で遅筋線維を支配するように分化した神経が接合すると筋管は遅筋線維になり、速筋線維を支配するように分化した神経が接合すると筋管は速筋線維になります。どちらの神経が結びつくかは神のみぞ知る世界であり、その人間が受け継いだ遺伝子による設計図次第というほかありません。

ただし、一度、遅筋線維に分化した筋線維でも、その筋線維から神経を切り離し、速筋線維を支配している神経とつなぎ変えると、遅筋線維が速筋線維に変わります。このことは、神経から出される指令が、筋線維タイプを決める重要な因子であることを如実に示しています。

また、遅筋から単離したサテライト細胞を培養すると、すべて遅筋線維になることも最近の研究でわかってきており、筋線維タイプはすでに筋芽細胞の段階で決定されているのではないかという見方も強くなってきています。


一般に、遅筋線維の特徴は、
①サイズが小さい
②比較的小さな力を発生する
③収縮速度が遅い
④疲労しにくい
⑤一定の力を長時間発揮できる

などです。

これに対して、速筋線維は、
①サイズが大きい
②大きな力を発生する
③収縮速度が速い
④収縮を長時間寺続できない
⑤疲労しやすい

といった特徴があります。


遅筋線維も速筋線維も、それぞれの線維につながっている神経によって活動が調節されています。軽くてゆったりした運動のときにはゆっくりと収縮する遅筋線維を支配している神経が興奮し、強い瞬発的な力が必要になると速筋線維を支配する神経が興奮するようになります。

これまで説明した筋線維の特性は固有不変のものではありません。速筋線維を支配していた神経を遅筋線維につなぎ換えると、遅筋線維は速く収縮するようになります。逆に遅筋線維を支配していた神経を速筋線維につなぎ換えると、速筋線維はゆっくり収縮するようになります。

繰り返しになりますが、骨格筋をつくる筋線維は「遅筋線維」と「速筋線維」に大別できます。それぞれ「持久的な運動」と「瞬発的な運動」をするのに適した性質をもつように分化したものです。

骨格筋には遅筋線維と速筋線維の両者が入り混じっています。遅筋線維は軽い運動や姿勢制御のために働いており、からだの深部の筋肉に多くあります。一般に、人間は遅筋線維と速筋線維をほぼ半々に有しています。そのために、ジョギングのような持久的な運動でも、スプリントやジャンプや投てきのような瞬発的な運動でも、どちらも適宜に行うことができます。

しかし、人によっては遅筋線維が多いとか、逆に速筋線維が多いというように、いずれかの筋線維タイプの占める比率が有意に高い人がいます。

遅筋線維を多くもつ人はマラソンのような持久的な運動に優れた能力を発揮でき、速筋線維の多い人は短距離走や跳躍のように瞬発的な運動で高い能力を発揮できます。

このように筋線維タイプの比率と連動能力との関係については、優れたスポーツ選手の筋線維比率を調べることによって明らかにされています。男女ともマラソンのような持久的な種目の選手では遅筋線維の比率が高く、短距離走のような瞬発的な種目の選手では速筋線維の比率が高くなっています。

3.遅筋線維の比率
マラソン85%
水泳80%
長距離走70%
スピードスケート70%
ノルディックスキー65%
アルペンスキー65%
アイスホッケー60%
競歩60%
一般人50%
やり投げ50%
800m走50%
砲丸投げ40%
短距離走35%
跳躍35%

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