マラソンで脚の筋肉がバテてるのは筋持久力が不足しているから!
1.マラソンを走った市民ランナー、特に思うような結果を出せなかったランナーは、よくこんなことを口にします。「呼吸は苦しくないのに、脚が動かなくなってしまった」
私自身、何度となくそういう経験をしました。ペースは速くないから呼吸は楽にできるし、このペースで走り抜こうという強い意志も持っている。それなのに中間点を過ぎる頃から脚に疲労を感じ始め、30キロ地点ではストライドが極端に小さくなり、35キロ地点では激しい痛みすら襲ってくるのです。
この脚さえ動いてくれたら目標タイムを出せるのに、と思いながらずるずるペースは落ち、ひどい時には歩き始めてしまいます。
5キロレースや10キロレースでは、こうはなりません。まず呼吸が苦しくなり、その苦しさによって走るスピードは限界を迎えます。ところがマラソンでは、脚が動かなくなることによって、自分の限界が訪れることになるのです。少なくとも市民ランナーのレベルでは、そういうことが多いようです。
このような現象が起こるのは、脚の筋肉がマラソンの距離に耐えられるだけの持久力を持っていないからです。
心肺機能に余裕のあるペースで走っていても、筋肉が42.195キロという距離を走り切る前にばててしまう。するとペースが落ちるため、ますます「呼吸は苦しくないのに……」という状態になるのです。
42.195キロに耐えられる脚は、がっしりしているとは限りません。例えば中山竹通選手の細く長い脚を思い浮かべてもらえば、そのことがわかるはずです。マラソンランナーが問題にしなければいけないのは、筋肉の大さではなく、筋肉の質なのです。
では、持久力のある筋肉と持久力のない筋肉は、一体どこが違うのでしょうか。
ちょっと難しい話になりますが、持久性に優れた筋肉には、毛細血管がたくさん走っていて、筋肉繊維中にミオグロビン(筋ヘモグロビン)という物質が多く含まれています。
血液中のヘモグロビン(血色素)もミオグロビンも赤い色をしているため、持久性に優れた筋肉は、普通の筋肉に比べると赤っぽく見えるのだそうです。
毛細血管が発達していると、血液によって酸素がたっぷりと筋肉まで運ばれてきます。筋肉繊維中のミオグロビンは、酸素と非常に結びつきやすい性質を持っているので、これがたくさんあると、毛細血管を流れる血液から、酸素を素早く筋肉繊維の中に取り込むことができます。
酸素を取り込んだ筋肉は、グリコーゲンや脂肪を燃焼させて、運動するのに必要なエネルギーをつくり出します。
また、酸素が豊富に送り込まれると、乳酸という疲労物質もどんどん分解されて行きます。エネルギーが次々とつくられ、疲労物質が消えて行くのですから、筋肉はいつまでも動き続けることができます。
つまり、これが筋肉の持久性です。マラソンで「呼吸は楽なのに脚が動かなくなる」という体験を持つランナーは、まだまだ筋肉中の毛細血管とミオグロビンが不足しているのです。
市民ランナーの多くは、この弱点を抱えているといってもいいでしょう。
2.能力以上のペースで走ると筋肉内に疲労物質がたまってくる
まず乳酸ですが、これは酸素の供給が追いつかないような速いペースで走った時に生じます。マラソンを走る時には、呼吸によって体内に酸素を取り入れ、その酸素によってグリコーゲンや脂肪を燃焼させて、エネルギーを得るのが理想的です。ところが速いペースのランニングを持続すると、体内に取り入れる酸素が足りなくなります。不足した分は、グリコーゲンを無酸素的に代謝させることでエネルギーをつくり出しますが、この時に代謝産物として乳酸が生じるのです。
つまり、ゆっくり走っている時は乳酸はほとんど生じませんが、あるスピードを超えると急につくられるようになります。この乳酸の発生が起こり始める速度を、専門的にはATポイント(酸素負債閾値)といいます。
乳酸は疲労物質と呼ばれるもので、筋肉内に蓄積すると、筋肉の収縮が制限されたり、収縮できなくなったりするため、速いペースを維持できなくなります。
それを防ぐには、乳酸が発生しないペース(ATポイント以下のペース)で走らなければなりません。
また、あるランナーが最高のタイムをマークするためには、ATポイントをわずかに下回るぎりぎりのペースを維持すればいいことになります。
それを超えるとオーバーペースとなって、必ず反動がくるわけです。どのくらいのペースで走ると乳酸が発生するかは、ランナーの能力によって違ってきます。体内に酸素を取り入れる能力が高いランナーほど、速いペースでも乳酸の発生は起こりません。
また、乳酸が発生するようなスピードでのトレーニングを繰り返し行ったラナーほど、速いペースでも乳酸が発生しにくい能力を持っています。一流マラソン選手は最大酸素摂取量の75~85%で走った時にATポイントに達しますが、市民ランナーレベルでは、50~70%で走った時にATポイントに達するといわれています。
ATポイントをわずかに下回るスピードがマラソンの適正ペースだとすれば、ATポイントのスピードによって、そのランナーが達成できる限界のタイムが決まることになります。
一流マラソン選手の場合には、ほとんどそうだといっていいでしょう。ところが市民ランナーの場合には、必ずしもいい切れない面があります。なぜなら、もうひとつの重要な要素であるグリコーゲンの問題があるからです。
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